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不親切でメモリアルな音楽の旅:「unkind」レポート(前編)

2016年10月2日、秋晴れの日曜日。東京から深夜バスで8時間、秋田県は藤里町にしかない5箇所のロケーションを舞台装置に、一風変わった野外フェス「unkind」が開催された。ひとつのステージで行われるライブはひとつだけ。観客は小学校の体育館をスタート地点に、滝、いちょうの木の下、河原、グラウンドなど自然の中を歩きながらライブを楽しむ。「不親切」だからこそ思い出深いこのお祭りは、町全体を音楽という非日常に引き込んだ。この日、藤里町に何が起こったのか? 長い長い一日を写真家・黑田菜月のスナップとともに振り返る。

text_坂崎麻結 photo_黑田菜月

ミッドナイト・エクスプレス、渋谷タワレコから遠く離れて。

集合は10月1日の夜22時45分、浮き足立った土曜夜の空気が充満した渋谷タワレコ前。「lute様」と書かれた和光観光バスが停まっている。タワレコ横にある自販機で飲み物を買っているやたら可愛い女の子、やたら大荷物だなあと思ったらZOMBIE-CHANGだった。リュックの中身は機材らしい。

バスに乗り込んだのは、ムービー撮影チーム、取材チーム、そして4組のアーティスト(鎮座DOPENESS、環ROY、ENJOY MUSIC CLUB、ZOMBIE-CHANG)で、だいたい15人くらい。「ワタシ、飛行機でもすぐ寝れるんですよ」と言っていたZOMBIE-CHANGは、全員が揃って自己紹介するときにはすでに就寝していた。

「何回も休憩していると予定時刻の明朝7時に到着しません。休憩は最小限にします」と運転手さんがアナウンスしたあと、長距離バスは秋田県へと出発した。

カーテンにトンネルの蛍光灯が反射する。小声で話す会話を聞きながら目をつぶると、だんだん眠くなってきた。沢木耕太郎の『深夜特急』よろしく、渋谷タワレコ前から藤里町までの長い長い旅がはじまった。

 

早朝の藤里町、どこまでも見渡せるランドスケープ。

予定時刻を少し過ぎて到着した藤里町。バスを降りると、もう空気が違った。川があって山があって森があって、高い建物がないからずっと遠くまで見渡せる。これだけ環境が違ったら、空気が違って当たり前だ。

8時間を越える移動は思ったよりきつかった。眠れたような気もするし、まったく眠れなかったような気もする。身体がカチコチに固まっていて、喉がカラカラ。とりあえずみんなでバスを降りて、ストレッチしたり歯磨きしたり深呼吸したり、ボケーっと景色を見たりしていた。

ここから一睡もせずにライブがはじまる。スタッフやアーティストのことを考えると、ちょっと不安になった。

鎮座DOPENESSの頭に気球が乗っかっているように見える、いい写真。

最初のステージとなる「旧坊中小学校」に向かうと、大きな気球が見えてきた。藤里住民の自主企画「みんなでまちづくり事業」が「気球にのろう!in BOUCHU ー空からは未来が見えますー」なるイベントを開催中だったようで、「unkind」がスタートする前から小学校には地元の子供たちが集まっていた。

「せっかくなので、気球に乗ってきます!」。さっそく受付を済ませたENJOY MUSIC CLUBの3人。
少しの不安と大きな期待を胸に、青空に飛び立つEMC。
いいタイミングで風船を飛ばしてもらったEMC(未来は見えたかな)。
地上に帰ってきたEMCと、高所恐怖症っぽい雰囲気のMC CLUB(右)。

 

郷土料理のだまっこ汁と、秋田のアイドル・ののちゃん。

小学校の中にある控え室に入って休憩していると、藤里町の家電屋の奥さんがはじめたという民宿「だまっこ屋」さんが、だまっこ汁なる郷土料理を振舞ってくれた。ごはんをつぶして丸めた“だまこもち”は、きりたんぽの兄弟みたいなものらしく、お祭りやお祝いごとによく出されるそうだ。見たまんま、あったかくて、ほっとする味。

今日のために会場にやってきてくれたのは、大館市大町商店街のゼロダテで働いている秋田犬・ののちゃん。普段は「あいにいける秋田犬」として活動中だ。ののちゃんにメロメロなZOMBIE-CHANG。

 

リハーサル前の鎮座DOPENESS、EMC。フリーキーな鎮座さん、しばらく姿が見えないと思ったら「近くの温泉に入って、地元のおばちゃんと30分くらい話してた」とのこと。バスであまり寝られなかった環ROYさんは、控え室で仮眠中。部屋の隅に置いてあるテレビでは、白神山地のマタギのドキュメンタリービデオが流れていた。もうすぐ、最初のライブがはじまる。

鎮座DOPENESSがライブを行うのは、昭和の香りが残る旧坊中小学校の体育館。
リハーサル前にバスケットボールで身体をほぐす鎮座DOPENESSとスタッフ。
次のページ鎮座DOPENESSがつくる、極楽エンターテイメント。

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