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〈連載〉ほぼ運まかせ 第1回 〜吉祥寺発 日比谷行〜|三宅唱

代表作に、ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に出品された『Playback』(2012)、ヒップホップアーティストの日常にある創作風景を捉えた『THE COCKPIT』(2015)。また、今夏には最新作『密使と番人』が、時代劇専門チャンネルと日本映画専門チャンネルで放送、東京・ユーロスペースでも特別上映されるなど、コンスタントに作品を発表している映画監督・三宅唱。この連載は、彼が映画やサウンドトラックを起点に、日々の思索を記録するエッセイ。

この日記では、映画を観て、音楽を聴いて、どこかに出かけて、誰かに会って、SNSやニュースをみて、また新しい映画や音楽を知って、というようなことを書きたい。なにがどう繋がっていくのか。風が吹けば桶屋が儲かる、みたいな流れを書いておきたい。棚から牡丹餅、瓢箪から駒、開いた口に団子みたいな不意打ちを書いておきたい。3年前につくった『THE COCKPIT』でOMSBが「ほぼ運まかせ 気分屋の決闘」というフックをラップしてくれた。そういうノリで書いてみたいと思っている。

『THE COCKPIT』予告

3月×日

歯医者で「三宅さんを吉祥寺でみかけましたよ。話しかけようと思ったけど、私のこと覚えてないかもと思って~」と受付の方に言われた。

たしかに数日前、吉祥寺に行った。『PARKS パークス』を反芻しようと、舞台となった井の頭公園でサントラを聴きながら一時間ほどぶらぶらし、帰ってから劇場パンフレット用の文章を書きあげた日だった。

「ああ、僕かもしれません」とろくでもない返答をしたため、会話はすとんと終了した。せめて『PARKS パークス』をおすすめするとか、もっとこう、あったよな、と思いながら帰った。

『PARKS パークス』予告

4月×日

「UPTOWN GIRL」

またしてもビリー・ジョエル「UPTOWN GIRL」のPVをくりかえし再生している。全カット最高。ジャド・アパトー監督『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』を観たせいだ。この映画を観なければ、ビリー・ジョエルのこの曲、知ってるようでろくに知らないままだったかもしれない。

『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』予告

4月×日

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を観に有楽町シネマに行った。エレベーターが開くと先にデート中の友人が乗っていて、なんだかエドワード・ヤンの映画みたいだな、と思った。

『牯嶺街少年殺人事件』予告

こんなに音楽映画だったか、と驚いた。「楽隊の演奏の音が大きくて、愛の告白の言葉がお互いによく聞こえない」という演出に胸打たれる。

そして、生意気な少年がエルビス・プレスリーを歌うシーンが好きだ。映画の中で人が歌うシーンはなぜいつだってとてもいいのか。わからない。まあ、わからなくてもいい。いいものはいい。ところでプレスリーという存在は、今で言うと誰になるんだろうか。

それにしてもいろんなシーンを忘れてしまっていた。パンフレットを買ったら、濱口竜介監督がこの映画にまつわる「忘却」について文章を書いていた(ハマちゃんの文章といえば、ユリイカ「原節子」特集には度肝を抜かれた)。パンフレットを日比谷の北海道ラーメン屋のカウンターで読んだ。かつて同郷の先輩に教えてもらった店で、夜に一人で日比谷にいるとつい行ってしまう。

その日、先輩とラーメンを食べる前に銀座のバーなる場所に連れて行かれた。かなり気が引けたが、入店してみると音楽のボリュームというか、音の伸びというか、柔らかさというか、とにかく音がよかった。また行きたいが、どこだったか忘れた。

一杯目に口をつけた頃、ディアンジェロのセカンド・アルバム『Voodoo』がかかった。10代の頃に最もよく聴いたアルバム。いつからか手元にCDがなく、今使っているパソコンにデータも入れていないので、たまたま外で不意打ちされると、たまらない。OMSBがライブで、「Devil’s Pie」に乗せて「黒帯」のリミックス(?)をたまにやるのだけど、初めてみた時は楽しすぎてわけがわからなくなった。

OMSB&Hi’Spec/黒帯【LIVE】

5月×日

クリステン・スチュアートとジェシー・アイゼンバーグの共演作だと知って、渋谷シネパレスに『カフェ・ソサエティ』を観にいった。ある意味で「カバー」みたいな映画だった。往年のハリウッド映画の「カバー」のようでもあり、また二人のこれまでの共演作の「カバー」にもみえた。変奏というかリメイクというかリミックスというか。

『アドベンチャーランドへようこそ』、『エージェント・ウルトラ』、そして『カフェ・ソサエティ』と、もう3作でカップルを演じている。二人はどんな気持ちなんだろう?

観ているこちらは、その役だけでなく、別の映画の役も重なったり、役と役の間のなにかも感じたりする。二人にはこれからもカップルを演じ続けて欲しいと思う。同時代の同世代の人だからか、感じ入るものがとても多いというか、二人の姿に自分や友人たちを重ね合わせるのは楽しい。

『カフェ・ソサエティ』予告

5月×日

もう何度目かわからないが、『アドベンチャーランドへようこそ』を適当に流して観る。劇中、クリステン・スチュアートとジェシー・アイゼンバーグが打ち上げ花火を見上げるというシーンの曲が好きだ。Crowded House「Don’t Dream It’s Over」。副音声のオーディオコメンタリーによると「87年の夏のテーマみたいな曲。ヒット曲だけどすごく好きなんだ」とグレッグ・モットーラ監督。

『アドベンチャーランドへようこそ』予告

YouTubeの検索ウインドウに「曲名 cover」といれてみると、アリアナ・グランデとマイリー・サイラスがふたりで「Don’t Dream It’s Over」をカバーしていた。なぜだかよくわからないが、モノマネやカバーに惹かれる。フェチだと思う。アリアナさんがSNLで披露している歌モノマネの回もよかった。

サンクラで絶妙なリミックスを探しはじめるとすぐに夜が明ける。映画や音楽について書くと最初にざっくり書いたけれど、ともすると毎回、いろんなカバーやリミックスについて書く予感がする。

Profile

三宅唱(みやけ・しょう)

1984年北海道生まれ。映画監督。『やくたたず』(2010)の後、『Playback』(2012、ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門正式出品作)を監督、高崎映画祭新進監督グランプリ、日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。『THE COCKPIT』(14)は国際ドキュメンタリー映画祭シネマ・デュ・レエル新人監督部門に正式出品された。ほかにビデオダイアリー『無言日記』シリーズなど。最新作『密使と番人』(17)が7月公開予定。

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