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女の子のからだと動きで物語る異色ダンスムービー『ほったまるびより』で表現した”愛”の形とは|吉開菜央 インタビュー

人を人格ではなく存在そのもの、タンパク質そのものとして愛でる

——では映画についてお聞きします。本作『ほったまるびより』のコンセプトはどのように思いついたのですか?

シンガーソングライターの柴田聡子さんの存在が大きいです。柴田さんは木造の平屋に住んでいるのですが、そんな彼女の家には、パンくずが落ちている。そのパンくずに、小さい女の子たちが群がる。彼女たちは座敷わらしで、柴田さんにはその姿が見えない―。そんな設定の作品だと可愛いだろうなぁと思っていたんですね。あと当時シェアハウスに暮らしていて、掃除にすごく敏感になっていました。ほんとに、髪の毛を一本一本拾うくらい、超几帳面だった。そのとき「これを女子衆(おなごしゅう)にやってもらったらおもしろそう!」ってひらめいて。

——女子衆?

ダンサーとして出演した子たちのことです(笑)。撮影の現場で私が「女子衆〜!」って呼ぶと、白装束着た子たちがペタペタと集まって、すごく可愛かったなぁ。もともとダンサーだからか「人に触れる」ことへの壁が全くなくて、ほんとうに自然に触れ合うんです。私はそうやって人に自然に触れることはできないから、羨ましかったですね。あとおもしろい話が、文化庁のスタッフの方が、この作品をドイツの女性映画祭に応募してくれたらしいのですが、結構良いとこまでいったのに、最終的にチャイルドポルノに引っかかったみたいで(笑)。

——ポルノとまでは思いませんでしたが…。

海外の方にはそう見えたのかもしれませんね。まぁ、私はむしろ「女子衆たちが子どもに見えたのならしめたものだ」って思ったけど。

——以前、この作品では「ラブシーンが撮りたかった」と言っていましたね。この作品における「ラブシーン」の定義は?

人を、その人の喋り方や経験などのパーソナリティで見るのではなく、ひと目見て「わぁ、なんて立派なタンパク質!」という感じで、身体そのもの、存在そのものを褒める・愛でることです。人の匂いや、落ちた髪も、かつては「人」だったわけで。そう考えると一体どこまでが人なのかわからなくなるけど、全部好きだよな、という感覚です。この作品では、舞台の一軒家自体を渾然一体となった生き物のように感じもらえたらと思います。ちなみにこの映画のタイトル、『ほったまるびより』の「ほったまる」とは、「ほうっておくとたまるもの」の略です。髪の毛や爪、足の裏の皮など、身体から出る落としもの。あるいは日々の生活で蓄積される様々なにおいのことをそう呼んでいます。

観賞は大画面・大音量で。考えるのではなく、感覚で。

——この記事の冒頭にも注意書きがありますが、この映画の没入度を上げるひとつの要素として「音」がとても重要な映画だと感じます。

撮影時は、録音が難しいシーンが多かったので、出演者の動きの音はほとんどスタジオで再録音しています。担当していただいたのは、塚本晋也監督の作品でも音作りに関わっていて、他にも最近では『永い言い訳』や『寄生獣』なども手がけられた音響効果のスペシャリスト・北田雅也さんです。この映画には会話はなくて、音だけで状況を説明していくので、おっしゃるように、音の質がとても重要なんですね。私も録音のスタジオに同行させていただき、北田さんと一緒に、音をひとつひとつ確認しながら録っていきました。 実際に映画で鳴っているダンサーの息遣いや足音は、私と別のダンサーの2名が映像を見ながら、一緒に動いて出した音です。  北田さんが 「一般的な商業映画では、フォーリー(※1)で要求される音はある種規格化されていて、我々フォーリーアーティスト(※1)は無思考にいつもの音を出す傾向がある。でもこの作品では、監督を含むダンサーたちが自らフォーリー収録を行ったことで、自分の中にある規格化されたフォーリー収録音の概念を打ち破る作品になった」と言っていたのが印象的でしたね。

(注釈)※1…「フォーリーアーティスト」とは、「自分の体を使って映画に必要な音を出す人」。映像収録時に一緒に録音された音(同録)を使用せず、後で録音スタジオで演技をしながら音を入れる作業工程を「フォーリー」と呼ぶ。足音や布ずれなど様々な動きを映像で確認しながら、リアルタイムに録音していく。

——この作品は、現在でもスクリーン上映に加えてパフォーマンスも行う「自家製4DX」を各地で上演していますね。

はい。何度か上演を重ねていますが、自家製4DXはすごくいい方向に変わってきたと思います。一度、大学院の先生でメディア・アーティストの藤幡正樹さんに「処女作ゆえの”未完成さ”があっておもしろい映画だった」という感想をいただいたんです。藤幡さんは「いろんな要素が入ったまま整理されていない」という意味で「未完成」とおっしゃっていたのですが、私は「映画として完璧に作ったつもりだったのにな」と長い間思っていました。青森県の酒蔵で展示をしたときに、お客さんに説明するために初めてスクリーンの前で踊ってみて、それがとても好評だったのですが、その時に藤幡さんのこの感想が頭をよぎって、自家製4DXという形もありかもしれないなと思うようになりました。

Photo:HATORI Naoshi/写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]

——映像だけでなく、さらにパフォーマンスすることで作品が発展していく可能性に気がついたと。

そうです。そこから徐々に上演を重ねて、去年は台湾、韓国に続いてSuperDelux(六本木)、今年は名古屋で上演することが出来ました。名古屋ではシーンと連動する形で、スクリーンから水が出せて、それがとっても最高だったんですよ。ナイアガラの滝のように水がスクリーンをつたって、水に飛び込むシーンでは水が溢れだして、びしゃびしゃになる(笑)。とてもエンターテイメント性の高いものになりました。

Photo:HATORI Naoshi/写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]

そうそう、すごくおもしろかったのが、以前YCAMの「爆音映画祭」に呼んでもらったとき、親にも観に来てもらったんですね。すると、まぁああいう内容なので「アンタなんて映画を作ったんかね。お母さんは恥ずかしくて顔も上げられんかったわい!」って、怒って帰っちゃったんです。それが、なぜか名古屋上演の話を聞きつけて、わざわざチケットを買って自家製4DXで観てくれた。その時は「すごく良かった」って(笑)。映画の内容は何も変わってないというか、むしろ強調してるのに、なぜかすごく楽しかったみたいなんですよね。

Photo:HATORI Naoshi/写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]
——本作は2014年の公開なので時間は少し経過していますが、まだ有機的に変化し続けているんですね。

でも、実はこのlute cinemaのお話をいただいた時、それ(時間が経過していること)をネックに感じたんですよ(笑)。ここ数年、特にMVで百合(※女性の同性愛)っぽいジャンルが流行っているじゃないですか。百合というテーマが、男女の恋愛と同じように、フラットに描かれるようになったこと自体は否定するつもりもないし、ドキドキする気持ちもわからなくはない。でも「ただ単純に再生回数を増やすためにそういう設定にしている」のが見えてしまう映像には、すごく腹が立っていて。だって、ふたりの間になんのドラマもないのに、女の子同士がただイチャイチャしてるだけなんてつまんなくないですか? あえて女の子にした理由が明確じゃないと「お手軽だなぁ」って思っちゃいます。この作品も(Youtube上で公開することで)そんなふうには見られたくないなと思うし、だからこそ観る環境が重要で。むしろ、この映画で愛し合ってるのはタンパク質同士ですからね。愛の言葉は何もささやかないけれど、耳をそばだてるとタンパク質が愛に軋む音が聞こえてくると思います。やっぱり、できるだけ大きな画面で、大きな音量で聞いてほしいなと思いますね。

『ほったまるびより』

CAST

出演:織田梨沙/柴田聡子/後藤ゆう/小暮香帆/菅彩香/矢吹唯

STAFF

監督・脚本・編集:吉開菜央

音楽:柴田聡子

撮影:米山舞

照明:加藤大輝

サウンドエディター・ミキサー:北田雅也

美術・スタイリスト:加藤小雪

衣装協力:ANTIPAST

企画・プロデューサー:鈴木徳至

Profile

吉開菜央

1987年生まれ。山口県出身。日本女子体育大学舞踊学専攻でダンスを学んだのち、東京藝術大学大学院 映像研究科に進む。「見て、聴く」ことに集中すると得られるたくさんの感覚を大切にしながら作品を制作している。2015年に監督した自主映画『ほったまるびより』が文化庁メディア芸術祭エンター テイメント部門新人賞を受賞。同作はパフォーマンスと特殊効果を使った踊る映画の上演作品としても 劇場やライブハウスで発表されており、台湾、韓国、日本などアジア各国で上演され、好評を博す。

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