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愛との戦いが産んだ長回しと振り付け

松本 『魔法』を観た帰り道に、一緒に行ったひらのくん(EMCのメンバーであり、アニメーション作家のひらのりょう。今回のMVでは美術監督を担当)に「せっかく踊りもあるし、PV撮ったらいいじゃないですか」って言われて。その時には、女子高生が踊ってるのを撮ってるだけじゃ普通のPVになっちゃうから、難しいなと思ったんです。とはいえ、『魔法』と「ライトブルー」の出会いを何かの形で残したいなと思って三浦さんに相談したら、すごく喜んでくれて。ただ僕は最初、誰か一人を主人公にして構成したいと考えていたんです。そうした方が締まるかなと。でも、三浦さんが「それだけはやめてくれ!」って(笑)。

江本 みんなへの愛が強すぎて(笑)。

三浦 全員の魅力が分かってたから…。

松本 それを聞いて、今回は「三浦さんの愛との戦い」になるなと。振り付けの島田さん(三浦と同じくロロメンバーの島田桃子)にも(出演者への)異常な愛があったから、ひとりひとりが輝けるような振り付けになっていて、それがすごくよかった。ほとんど母性だったなぁ。

江本 愛が上手く作用しましたよね。溢れすぎる愛に途中何度か悪酔いしかけましたが(笑)。結果、長回しがいい感じにハマりましたね。

——今回、松本さんが監督、三浦さん演技指導という役割だったんですよね?

松本 ほとんど共同監督みたいな感じというか、中身は一緒に考えていきました。彼女達の演技は基本三浦さんがみて、全体の画を僕がみました。一緒に作るのがすごく楽しかったですね。

三浦 20人のポテンシャルが発揮されたら、きっと上手くいくと思ってた。映像に関しては素人だけど、ひとりひとりの魅力を知ってるから、彼女達に言葉を与え続けて、モチベーションを保たせるのが俺の仕事だと思って参加してたかな。

松本 その辺は三浦さんを信頼してたから、僕は生徒たちとはあまり距離を詰めなかったです。普段はちゃんと話しながら撮っていくんですけど、今回はカメラマンの後藤さんと「監督とカメラマンまでエモくなると危ない」という話をして、現場を俯瞰でみれる位置を保ちました。本当は、女子高生に見つめられることに耐えられなかっただけですが。

江本 三浦さんとの共同制作という点では、撮影の前に『Quick Japan』の記事のためにEMCと三浦さんで曲(「100%未来 feat.三浦直之(ロロ)」)を作ったことがあったんです。そこで信頼関係ができましたね。みんなで歌詞を出し合ったり、ラップしたりっていう恥ずかしい部分をさらけ出したから。

松本 その時にお互いが面白がるポイントが似てるっていうことが分かっていたことが大きかったですね。

三浦 アイデア出しの時、お互い正解だってすぐに分かるんですよね。今回のMVの「長回し一発撮り」っていうアイデアはどうやって出てきたんでしたっけ?

松本 絶対に『魔法』と地続きのものにしたいと思っていて、かつ三浦さんとあの子達の関係性も活かしたい。となると、カットを割ってきれいな画で撮るのは違うなと思って。

三浦 長回しの方が演劇的な要素がでてきますもんね。その方が彼女たちのポテンシャルを引き出せる。

松本 長回しはそうやって決まって、あとは『魔法』のモチーフでもあった文化祭を扱いたかったんですよね。もともと『リンダリンダリンダ』(2005年公開/山下敦弘監督)など文化祭モノが好きなのもあって。そしたら三浦さんが「文化祭までの一週間くらいを一気にみせたら面白いんじゃない?」って提案してくれて。そこからは早かったです。

江本 俺は2人が出すアイデアに「サイコー、サイコー」って言ってるだけでした(笑)。打ち合わせの時はバンバン理想を言い合ってる感じで、「それ、現実にできるの?」というのが一番の問題だった。実際にあの映像が撮れたことが、今考えてもすごいなと思います。

松本 「三浦さんってやっぱりすごいなぁ」と思ったのが、渡り廊下で喧嘩するシーンで「喧嘩する2人、お互いを褒め合って!」って演技指導するんですよ。MVでは現場の音が聞こえないからわかんないけど、本当は「お前なんでそんな可愛いんだよ!」「はあ!? お前の方が可愛いし!!」って言い合ってる。それが超おかしくて、場の雰囲気が良くなりました。このシーンだけじゃなくてMV全体をまとうハッピーなバイブスは三浦さんの手腕によるところが大きいです。

生徒、教師、OB…全員のモチベーションが高く、異様な現場

松本 今回のMVは、齋藤夏菜子先生の存在も相当大きいですね。

三浦 うん、本当に。演劇の授業を担当している先生で、俺のことを卒業公演に呼んでくれたのもその夏菜子先生。滞在制作をしている時は演出助手的な仕事を中心に、色んなことをカバーしてくれました。夏菜子先生だけじゃなくて、いわき総合高校の先生達はみんなすごいんですよ。

松本 今回の撮影では先生方がめちゃめちゃ活躍してくれましたね。あと、スタッフや手伝いに来てくれたいわき総合高校のOBや後輩も含め、(撮影に関わった)全員のモチベーションが異様に高い、不思議な現場でした。みんな一円もお金が貰えないのに作品に奉仕しよう、という気持ちがすごくて本当に泣けました。

江本 スタッフみんなで学校の合宿所に泊まって、同じ部屋で雑魚寝したのもいい思い出でした。毎晩みんなでスーパー銭湯行って、サウナをエンジョイした帰りに、コンビニに寄ってアイスと缶ビールを1本だけ買って合宿所に帰るんです。寒空の下、みんながそれぞれコンビニのビニール袋を持って楽しそうにしているうしろ姿を見て、「あぁ、これって青春なんじゃないかな」と思いました。

松本 その直後に江本さんは「財布無くした!」って大騒ぎしてたけどね(笑)。

三浦 さらにその後、財布が見つかってテンション上がった江本さんがみんなにガリガリくん買ってくれてね。

——全体の中でも特にここ、といった見所はありますか?

三浦 細かい部分に注目してほしいです。屋上にカフェオレの紙パックが置いてあったりとか、えんちゃん(イラストレーターのボブa.k.aえんちゃん。EMCやロロにもイラストを提供している)にお願いしたオリジナル漫画が映ったりとか。文化祭のディテールまで意識してコントロールできるのが、松本さんのすごいところですね。何回も観て楽しめる要素があると思います。あとは江本さんの出演方法も素晴らしいので、ぜひ探してみて欲しいですね。

江本 俺は現場では装飾を作ったり、準備の方を手伝っていたのもあって、日付が変わっていく様子に注目してほしいです。OBの子や演劇部のみんなと装飾の塩梅を調整したりして、細部にまでこだわりました。本当に文化祭みたいでしたね。

松本 屋上で告白してるシーンがあるんですけど、そこで出演している女の子の「ダメー!」って断る演技が超好きです。フラられた男子はその後のシーンでも出てくるので、是非見つけて欲しいですね。あと、島田さんの振り付けも良かったですよね。ダンスって、カットを割ったらそこそこ格好良くは撮れると思うんですけど、今回はカットを割れない。だから印象を全部変えなきゃいけなかったんです。映像中、全部で4つのダンスシーンがあるんですけど、全部雰囲気が違うものになっていると思います。それは島田さんの振り付けの力ですし、すごく助かりました。校舎から出てきて文化祭の模擬店の前で踊るシーンの振り付けがスーパー可愛いくて、とっても好きです。

——撮影で一番大変だったことは?

松本 撮影途中で一人体調を崩しちゃった子がいて、撮影続行できるか分からなくなってしまって。なんとか体調が回復したから撮影できたんですけど、寒い中走るから、何テイクもできないっていうのはすごく怖かったですね。

三浦 長回しで、全力疾走のあとに踊るっていうのが延々繰り返されるから相当過酷だったと思う。

松本 でもみんな「楽しいから大丈夫!」って言うんですよね。

江本 本当に楽しそうにやってるのがよかったですね。

松本 MVで使った、最後のテイクが一番集中していましたね。日が落ちてきて、香盤的にも、みんなのテンション的にも「これをミスると次はない」というラストテイクで全力を出し切ってくれた。彼女達のラストテイクの全力の青春感に救われた気がします。

三浦 このMVで江本さんに売れて欲しいですね。

松本 第2の星野源を目指そう!

三浦 俺と松本さんで『残るが意地でも役に立たない』を撮ろう!

江本 島田さんに「恋ダンス」みたいな振り付けを頼まないと!

Profile

江本祐介

1988年生まれ、埼玉県出身 。バンド、引き語りの活動を経て現在は自身の楽曲やCM音楽等の制作、他アーティストのREMIX・編曲を行っている。 ENJOY MUSIC CLUBではトラックと歌とラップを担当。

http://emotoyusuke.com/

松本 壮史

1988年生まれ、埼玉県出身。CM、MV、ショートフィルムなどの映像監督。

THE DIRECTORS FARM 所属。ENJOY MUSIC CLUBではラップと作詞を担当。http://matsumotosoushi.com/

三浦直之

1987年生まれ、宮城県出身。2009年、『家族のこと、その他たくさんのこと』で王子小劇場「筆に覚えあり」に史上初入選。同年、主宰としてロロを立ち上げ、以降全作品の脚本・演出を担当。

http://llo88oll.com/

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