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2016年7月にアナログ7インチ、および配信シングルとしてリリースされた江本祐介の「ライトブルー」のMVが完成した。監督は江本と共にラップユニットEnjoy Music Club(以下EMC)としても活動する映像作家の松本壮史。福島県立いわき総合高等学校に通う女子高生20人を主人公に、長回し一発撮りで4分あまりに凝縮された文化祭までの一週間が描かれる。彼女達の演技指導として、劇団ロロ主催の三浦直之が参加した。

福島県立いわき総合高等学校は、人文・国際系列、自然科学系列、スポーツ健康系列、芸術・表現系列、情報系列の6系列から選択履修する総合学科高校で、芸術・表現系列の中に「演劇」の授業がある。この授業では前田司郎や藤田貴大、危口統之といった劇作家を招いた作品創作、公演を行っており、飴屋法水が作・演出を担当した第10期生のアトリエ公演『ブルーシート』は、第58回岸田國士戯曲賞を受賞した。 今回のMVは江本、松本が「今まで観た舞台の中で一番衝撃的」だったと語る、三浦と演劇コース第13期生の女子高生が昨年夏に作った卒業公演『魔法』がきっかけになったという。作品に共鳴し合い、共作を果たした江本祐介、松本壮史、三浦直之の3人にMV「ライトブルー」誕生までの物語を聞いた。

text_稲泉広平 edit_奥村健太郎 photo_山口雄太郎

左から松本壮史、江本祐介、三浦直之

「めっちゃいい曲」と『魔法』の出会い

——「ライトブルー」誕生のきっかけを教えてください。

松本壮史(以下松本) 2016年の2月に僕が乃木坂46の桜井玲香さんの個人PVを撮ることになったんです。ラストシーンで男の子が恋に落ちるのですが、コンテではそこで「めっちゃいい曲がかかる 恋に落ちる」って書きました。台詞とかで説明したくなかったから、曲の説得力が必要で、江本くんにその「めっちゃいい曲」を作ってくれとお願いしました。

江本祐介(以下江本) 何曲も作ったのですが、ダメだと言われ続けました。

松本 『機関車トーマス』みたいな曲だったからね。

江本 松本さんが歌詞を書いてくれてから、すぐにできましたね。イメージがはっきりしていたので、読んだ瞬間に曲になるなって分かりました。

松本 出来た歌詞をLINEで送って、コンビニに行ってる間にmp3データのリンクが(LINEで)すぐ来ました。それがほぼ完成された状態の「ライトブルー」だったんで、スピード感にビビりました。帰り道で聴いて夏パッカーン!ですよ。2月に。

江本 映像の挿入歌なのでサビの2、30秒があればよかったから、そこだけ作りました。

松本 その後で江本くんが一曲にしたいって言うから、一曲分の歌詞を書いて、それを7インチで発売したんです。「曲名は『ライトブルー』にしない?」って提案したら最初「絶対嫌です。恥ずかしい」と言われて結構へこみました。

江本 「次の曲は『ライトブルー』です」ってライブMCで言うのを想像すると、なぜかめっちゃ恥ずかしいなと思ったんですよね。

——その曲が、どういった形で三浦さんとつながったんでしょうか。

三浦直之(以下三浦) いつも読んでいる「青春ゾンビ」っていうポップカルチャーについて語るブログに、「桜井玲香さんの個人PVがロロの三浦の作風に似てる」って書いてあったんです。観てみたら、すごくシンパシーを感じて。最後にかかった「ライトブルー」も印象に残っていて、7インチが出た時にフルで聴いたらやっぱいいなと。2016年の夏にいわき総合高校の卒業公演に演出家として呼ばれて『魔法』という作品を作ったんですけど、そのラストシーンで、青春爆発! みたいなカタルシスが欲しくて、「ライトブルー」を使ったダンスシーンを作ったんです。

松本 最初に三浦さんと会ったのは、ロロが「えるえふる」という居酒屋の一日店長「ロロ酒場」をやった時。「青春ゾンビ」をぼくらも読んでいて、お互いの存在をブログで知ったことがわかって盛り上がったんです。で、三浦さんが『魔法』で「ライトブルー」を使いたいってその場で江本くんに言ってましたね。その日が「ポケモンGO」のリリース日で、みんなで歩いてポケモンしながら帰ってる時に「いわきまで『魔法』を観に行こう」って話した記憶があります。江本くんはその時バリバリの無職だから、初日にしてポケモンをやり込んでてすごくかっこよく見えたなあ。

江本 1人だけレベルが異常に高かったですね。あの時にポケモンGOとロロ酒場の興奮があったから、遠くてもいわきまで観に行こっかってなったんですよね。

——実際に『魔法』をご覧になっていかがでしたか?

江本 自分の曲が最高の形で使われていて嬉しかったですね。

松本 今まで観た舞台の中で一番衝撃的でした。女子高生20人の魅力をそのまま使ってお芝居が作られているのがすごかった。

三浦 高校生とクリエイションする人はみんな、その人の本人性というのにどうアプローチしていくのかを考えると思うんだけど、本人性の強さと演劇という意味では、飴屋法水さんが『ブルーシート』で到達した感があるんです。で、その後にアトリエ公演を担当した危口統之さんは、本人と遠い「役」をやらせるという、反対のアプローチをした。その2つの作品を受けて、俺は「リアルな高校生に、高校生の『役』をやってもらう」っていうことをしようと思ったんです。

松本 劇の冒頭に、校長先生が挨拶をするんですよね。「なんとなく演劇を履修した20人の女子高生です。女優を目指す子は多くありません。これが人生最後の演劇になる子もいます」っていうのを聞いた時点で、これはヤバイのが観れそうだなと。プロじゃない子達が、三浦さんと作品を作るっていうね。ちょうど千秋楽を観に行ったから、出演している子は感極まりまくって泣くのを我慢してるんだけど、最後はやっぱりみんな泣いていて、観客も全員泣いてるし、これ以上エモいことはないなと思いました。今回のMVでも『魔法』と同じように、フィクションの中のドキュメント性というか、本人の魅力を活かすということを意識しました。なので、僕は三浦さんが引いたレールに乗っかっただけなんですよ。

三浦 そういえば、『魔法』には演者のみんながiPhoneの光を客席にかざすっていうシーンがあって、そうすると、彼女たちからは客席の人たちの顔が見える。だから「みんな誰かの表情を見つめながら台詞を言って」って演出をつけたんだけど、ある女の子が「千秋楽でめちゃめちゃ泣いてる人を見つけた」って言ってて、それが松本さんだったということが後に発覚しました(笑)。

松本 そうなんだ。…恥ずかしいな。でもあの時、一緒に行った人はみんな号泣でしたよ。

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