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社会を変質させる「散歩」というラジカルな行為について。|中島晴矢インタビュー

散歩とは1人で気ままに歩き、街を解釈して思考する、ラジカルな行為

——現代美術、またはヒップホップのアーティストとして、どんな表現に取り組みたいですか?

今の世の中の流れを見ていると、例えばトランプもそうですが、排外主義的なヘイトスピーチとそれに対するカウンターとしてのデモが目立っていて、どれも声高だなと思います。「これが新しいんだ」とか「これが一番すごいんだ、グレートだ」って、欲望が駆動している印象があって。確かにそのほうがメッセージ性も強いし、人を引きつけやすいし、扇動もできる。無論、ヘイトスピーチはクソだし、デモを否定する気も無いですが、今本当に大事なのはそれではない。

快楽や欲望を重視すれば都市はいくらでも作れるけど、その方向へと全体が行き過ぎてしまうのは危険だという直感があって。だから、例えば散歩なんです。散歩は1人、もしくは少数で勝手にやる行為ですよね。目的もなく気ままにものを考えたり、都市を自分なりに読み替えたり、主観で景色を見たりする。

今日において、多くの人はそういう類の行為をしていないと思う。みんなで同じ場所に集まって、同じ方向を向く。僕はそれ自体に違和感を覚えてるんです。みんなで声を上げる快楽に浸って、あまりものを考えなくなってるんじゃないかって。

1人で歩いて「ここは昔こうだったんだ。じゃあ俺は今こう思うな」とか考えてるやつのほうが、ラジカルだと思うんです。そもそも、芸術や文化に関わる仕事は長いスパンでものを見るものだから、僕は直接ではなく、未来の社会を変質させるものを作るべきだと思っています。

——それでは、Stag Beatの作品性においても、そういう思考のフレームに入っていくことになる?

これまでずっと映像作品を作ってきたのですが、気がつくとどれも街を歩くような作品でしたね。デビュー作はニュータウンでプロレスをする映像で、その次が福島を歩く映像。この前のアルバム(『From Insect Cage』)のPVも、地元の何でもない街を歩くというものでした。

Stag Beat【MV】A DAY IN THE LIFE

——「Stag Beat」と「中島晴矢」を交互に切り替えて活動している感覚はありますか?

Stag BeatのPVを丸木美術館で展示したこともあって、Stag Beatが中島晴矢に侵食しているのかもしれない。なので、明確にペルソナを分けているわけでもないです。ただ、Stag Beatが居るヒップホップはポップカルチャーだから、もうちょっと売れたいです(笑)。

——資本主義を少なからず嫌悪しつつも、売れたい思いもある。両者は矛盾せず同居しているのでしょうか。また、(売れることに)恩恵を与えてくれるメディアについてはどう考えていますか?

「メディアに乗りつつ、ずれる」というのを意識してます。メディアに乗りすぎず、悪く言ってしまえば利用していくというか。どちらかに偏るのがよくないのであって、だからメディアに対して、完全にアンチの立場を取るのも違うと思う。逆張り=アンチの態度を取るのではなくて「ずらす」という感覚が近い。

資本主義嫌いで散歩がしたいなら、極端な話、山奥でずっと1人で散歩していればいい。でも僕はそうではなく、あくまで自分の価値観を世に提示したいという欲望がある。巻き込みたいし、世に問いたいんです。現代について考えて、自分なりの答えを示していくのが現代美術であるとも思うし。

次の展示でも、単に過去を憧憬するんじゃなくて、現代の視点で見ることをテーマにしています。過去を見ることで未来を考えたい。例えば今いる東京なら、2020年がひとつ重要な節目ですよね。そこに向けて都市を作っていくときに、このままの価値観だと、我々にとって居心地のいい都市になるとは思えないから、そのためにメッセージしていく。「未来をどう作るか」を考えるためにやっているんです。

——「売れる」方向にもし”乗る”とすれば、Stag Beat(及び中島晴矢)には、どんな方法があると思いますか?

フリースタイルバトルでガッと上がったアーティストが売れるという構造は、すごく納得できます。ただ、僕らはバトルというよりは、楽曲の完成度を上げる方向ですね。例えばTOJIN BATTLE ROYALや Stillichimiyaのように「ローカリティをレペゼンすること」を突き詰めることで、逆に世界に広がるレベルに到達する……そういう表現が好きなんです。最新のUSのフローを取り入れてっていう方法は「ねじれ」が感じられないからあまり好きじゃない。

磯部涼さん(文筆家)とか佐藤雄一さん(詩人)、吉田雅史さん(批評家/ビートメイカー)、韻踏み夫くん(ブロガー)とかと一緒に「日本語ラップ批評ナイト」というイベントに出たりしてるんですけど、僕は書いたりしながらラップもする、初期の宇多丸さんのような仕事の仕方に憧れています。プレイヤーでありながらシーンを見る書き手でもあるという、二重性を引き受けたいなって。

現代美術においてもそれをやってる認識があります。美術だけじゃなく何にしてもですが、そうやって(二重性を引き受けて活動することで)シーンを作っていきたい欲望があるんです。ヒップホップはもうシーンができあがっているけど、そのなかで自分が好きだと思うシーンをちゃんとマッピングしたいと思っています。

——次の展示も「構築」と「観測」の両方の視点があるのでは?

そうですね。僕は「構築」もするし「観測」もする。その曖昧さ、ハンパさが僕のキャラだと思っています。『美術手帖』(2015年 05月号「特集 日本のアート、最前線!!」) に掲載されて実質的にデビューしたときも、Chim↑Pomの卯城竜太さんに「マッチョイズムと情けなさの応酬」と評されました。ほかのアーティストが「ポスト・インターネット」とか「現代で最も過激な活動」なんて書かれている中、こんなかっこ悪いデビューってある?って思いましたね(笑)。

でも、自分はそこがポイントだと思うんですよ。主観と客観とか、右と左、いろんなものを曖昧にして、揺れながら漂うというか。次の「揺れを見る」ことの楽しみを味わってほしいですね。

中島晴矢個展『麻布逍遥』

会期:2017 年6月 2 日(金) ~7月1日(土) 11:00 ‒ 19:00

日・月・祝日は休廊 *日曜イベントあり

ゲストキュレーター:青木彬

会場:SNOW Contemporary (東京都港区西麻布 2-13-12 早野ビル 404)

Profile

中島晴矢(なかじま・はるや)

現代美術家/ラッパー

1989年神奈川県生れ。法政大学文学部日本文学科卒業、美学校修了。

主な個展に「ペネローペの境界」(TAV GALLERY)、「上下・左右・いまここ」(丸木美術館)、「ガチンコ—ニュータウン・プロレス・ヒップホップー」(ナオナカムラ)、主なアルバムに「From Insect Cage」(Stag Beat)など。

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