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ミュージシャン×フィルム連載「1 film 15 questions」が生まれるまで

今の時代をつくるミュージシャンを、時代に取り残されたさまざまなコンパクトフィルムカメラで記録する「1 film 15 questions」。使うカメラは登場アーティストによって変え、そこで生まれる化学反応や新たな表現を探っていく。老舗写真店・西村カメラ駅前店の店主を務める西村康と、写真家・黑田菜月の何気ない会話から生まれたこの企画、その背景を対談形式でお届けする。

photo_Natsuki Kuroda / edit_Mayu Sakazaki

「コンパクトカメラ部」がすべてのはじまり。

――この企画はどのように生まれたんですか?

黑田菜月(以下、黑田) まず、西村カメラさんには普段から現像でお世話になっていて。写真について色々雑談をするなかで、「コンパクトカメラ部」なるものを始めると聞いて、おもしろそう! って思ったのがきっかけですね。

西村康(以下、西村) 「コンパクトカメラ部」っていうのは、コンパクトフィルムカメラのレンタル代・カラーネガフィルム代・現像代・データ作成代を、まとめて1000円でできますっていうサービスなんです。西村カメラの2号店である写真工房+でひっそりと始めて(現在は駅前店のみ実施中)、それに黑田さんがすごく反応してくれた(笑)。

黑田 かなり食いつきましたよね(笑)。どうしてレンタルをやろうと思ったんですか?

西村 いろいろな作家が現像を出しにきてくれるなかで、前々からレンタルがあったらいいんじゃないかっていうことを言われたりしていて。もっと根本的なことだと、フィルムやフィルムカメラについて、もっと発信していくためにはどうしたらいいのかっていうことを常日頃考えていたんです。いろんな写真屋があるけど、僕らができることってなんだろうと。

黑田 レンタルを始める前にも、このカメラってこんな風に写るんですか、みたいなやりとりはさせてもらっていましたよね。お店にもコンパクトのフィルムカメラがあったから、いろいろ教えて頂いたり。

西村 コンパクトフィルムカメラは、所有していたものとか頂いたもの以外にも、オークションで買ったりとかして集めるようになって。もう中古でしか出回ってないものだから、すごく高かったり、手に入りづらいんですよね。でも、当時作られたものって技術や用途がいろいろ工夫されていて、面白いものがいっぱいある。

黑田 実はいろいろと種類があって、レンズとかメーカーによって色味がすごく変わったり、シャープさとかも印象が全然違いますよね。

西村 そうなんです。ただ、やっぱり金額なんかの問題で作家さんたちも使うのが厳しくなってきているし、一般の人でも一時のブームで終わってしまったりする。例えば「写ルンです」が流行りましたけど、次の受け皿がないなと感じていて。金額がちゃんと見合う形にできて、カメラを買わなくてもフィルムを楽しめるってなると、レンタルがいいんじゃないかと思ったんです。まず、僕自身が好きで試したいっていうのもありました(笑)。

黑田 高い金額でフィルムカメラを買っても、なんか違ったっていうことがある。そう考えると手軽に好きなものを試せるってすごくいいですよね。

フィルムカメラはコミュニケーションを生む。

――今、わざわざフィルムを使うってことについてはいろいろ言われていますが、どう考えていますか?

西村 デジタルだと、やっぱり高解像度ですごく綺麗に写るってことが目的になってしまっている気がして。100万画素から200万画素、みたいに物の価値を高めないと次にいけないっていう。否定しているわけではなくて、果たしてそれが写真の価値なのかな? って。

フィルム時代に戻ると、35mmとかミノックスのすごく小さいフィルムもあれば、大判フィルムの作品も全部ちゃんと残っている。写り方や解像度っていうのはあんまり問題じゃないんだなと感じて、それならもっと遊んでいいんじゃないかなと思ったんです。例えば俳優さんやタレントの方なんかも今フィルムを使いますけど、それは自分たちのアクセントが欲しいとか、ファッションの用途でもあるんですよね。

もちろんフィルムだからいいというわけじゃなくて、昔より用途が柔らかくなってきたというか。写真自体の幅を広げるためにフィルムがあってもいいと思うんです。その役に立ちたいし、そうやって動かさないと僕らも仕事がなくなっていくので。

黑田 レンタルをやっているお店もありますけど、すごく高額だったり保険に入らないといけなかったりする。中古のコンパクトフィルムカメラを借りられるっていうのはリスクが低くていいですよね。現像とデータ作成までやってもらえるから、SNSやメールで誰かに見せるっていうところまでつながっていく。

西村 旅行に行くから一週間借りる、という人も多いですね。昨年6月から始めて、今までに50~60人くらいの人が借りてくれています。金額をなるべく抑えることで敷居を低くしたくて、まずはフィルム好きな人が他も試したいっていう感じで始めてもらえたら。水中用のものもあったりするので。

その方の意図を汲みつつ違うタイプを進めたり、余計なことを言ったりしながら(笑)、いろいろ試してもらう。スタイルが決まっている人にも、意外な発見をしてほしいんです。有名なカメラじゃなくても意外と面白いところがあるので、相談したりしながら。

黑田 例えばバンドのリハを撮るなら、室内でフラッシュを使わなきゃいけないけどあんまり強いのは嫌だな、とかがあって。じゃあ広角で明るいレンズがいいよね、みたいなやりとりをすることで、情報を蓄積できる。そういうコミュニケーションがやっぱり大事なんですよね。

西村 なんで「コンパクトカメラ部」ってダサい名前にしたかっていうと(笑)、伝わりやすさもあるんですが、なんか部活みたいな。情報共有をして、ネットでカバーしきれない部分を相談できる場になればいいなというのもあるんです。結局自分で使ってみないと分からないことも多いから、みんなで使ってみて、共有していって。敷居が低くて間口の広いコミュニティになっていけば。システムやサービスにして終わりっていうんじゃなく、身近なところから交流をしていきたい。

若手ミュージシャンを写していくことの意味。

――連載「1 film 15 questions」は、西村カメラでレンタルしているコンパクトフィルムカメラを使って、若手バンドやインディアーティストの舞台裏、少しプライベートな部分まで記録していく企画。まずミュージシャンを撮ろうと思ったのはどうしてですか?

黑田 周りにもコンパクトフィルムを使っている子が多いし、バンドやミュージシャンを撮る人もたくさんいるけど、どの写真もどこか雰囲気が似ていて。そこに対してちょっと物足りなさというか、もっと面白くなるし、もっといろんな表現ができるんじゃないかっていう気持ちがあったんです。そう感じているときに「コンパクトカメラ部」のことを知って、これだ! って(笑)。まだ手探りですけど、ようやくここまできました。私が最初にこの企画をやりたいって言ったときのこと、覚えてますか?

西村 覚えてますよ。めっちゃ嬉しくて、何かツイートした気がします(笑)。それが去年の夏ぐらいですよね。今までもいろいろと提案してくれた作家さんはいたけど、黑田さんは食いつきが違ったというか。この人は信じられるかもしれない、みたいな(笑)。ゆくゆくは「コンパクトカメラ部」で撮られた写真を冊子にしたりだとか、そういう展開ができたらいいなと思っていたので。

黑田 この企画も、続けていって本にできたらいいですよね。

西村 ある雑誌で「ものを残す」っていう特集があるから出ませんかという話をもらったことがあって。プリントして写真を残すってことの大切さって、自分が一緒に時間を歩んでいくというか。例えば子供の写真を大人になって見返すとかもそうだし、記録が記憶になっていくんだなと思ったんです。

もちろんデジタルでも残せるけど、綺麗なものだけ選んであとは消してしまったりするじゃないですか。だけど、いい思い出も悪い思い出も残しておくと、ダメな思い出も、笑い話になってコミュニケーションが生まれたりする。美化せず編集せず、こういうこともあったねって。写真ってそういうことができるからいいなって思うんです。

黑田 その感覚はすごくよくわかる。私も、いい写真を残すっていうよりは、そこで起きたことを一緒に共有できたらいいなっていうのがあるんです。何かが起きそうだとか、そういうアクションを残したい。

西村 写真って常に過去だと思うので、それを今とか未来につなげていくためにはどうしたらいいのかっていうのを考えるのが僕らの仕事。デコレーションをしたり編集するのもいいけど、もっとシンプルに、楽しんで撮って、データにして、それを最終的に何かの形に残してもらいたい。そうすることで点が線になって先につながっていく感じがするんです。

2000年ぐらいの時期って、フィルムがあまり注目されなくなるから技術者がすごく頑張ってるんですよね。こんな機能があるの? っていうのを今さら発見できたりして。黑田さんはそれを実際に使って楽しんでくれるし、「コンパクトカメラ部」に何かを発見してくれている。それにすごく勇気づけられて、答えたいなという気持ちもあります。

黑田 それは嬉しいです。私もこれまで西村カメラでいろいろ相談させてもらうなかで自然とやりたいことが浮かんで。沖縄に住む写真家と手紙を使って写真のやりとりをしたりもしているんですけど、カメラについて話したり写真を送り合うこととか、そういうコミュニケーションについてすごく考えていた時期だったんです。

変わったカメラを持っていると初対面の人と会うときでも結構笑ってくれたりするし、そうやって被写体に近づいていくことができるかも、とかイメージができて。それでコンパクトフィルムを借りてバンドを撮ったりするようになったんです。その結果、こういう企画を一緒にやりたいなって。

西村 このカメラではこんな写真が撮れるというイメージを残していきつつ、間口を広げていけたらいいですよね。より見ている人に楽しんでほしい。カメラのトラブルなんかも一個一個出てきますけど(笑)、そこでまたコミュニケーションが増えていくので。フィルムは五感で楽しむというか、見えている部分と見えてない部分が同じくらい大事なんですよね。写真と写真の間を読むというか、本当に面白いなと改めて思います。

黑田 写真にする過程で関わる人が多いから、ちょっとしたことでも会話が生まれるのは楽しいですよね。そういうのもインスピレーションになると思います。これからバンドやアーティストによって、例えばポップな人はポップなカメラで撮るとか、組み合わせで遊ぶってこともしていきたいと思っています。楽しみにしててください!

コンパクトカメラ部

西村カメラ駅前店で行っているコンパクトフィルムカメラのレンタル企画とそのコミュニティ。コンパクトフィルムカメラのレンタル代・カラーネガフィルム代・現像代・データ作成代を、まとめて1000円で楽しむことができる。基本料金は8日間で1セット1000円(税込)。カメラは撮影用途や気分で選べるので、西村さんに相談するのがおすすめ。

Profile

西村康(にしむら・やすし)

作家や写真家も通う東伏見の老舗写真店・西村カメラ駅前店の店主。「コンパクトカメラ部」を主宰し、店頭でのレンタルサービスをスタート。http://24came.com/blog/

黑田菜月(くろだ・なつき)

1988年生まれ、写真家。2013年に第8回写真「1_WALL」グランプリを受賞し、「けはいをひめてる」、 「ファンシー・フライト」、 「その家のはなし」など定期的に個展を開催し作品を発表。他、雑誌やウェブマガジン、映画の現場、CM撮影などさまざまなフィールドで独自の活動を続ける。http://kurodanatsuki.com

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